半導体不足の理由を探ったら、未来を見つけた!超小規模な製造装置「ミニマルファブ 」

ミニマルファブ推進機構 ファブシステム研究会代表・原史朗さん

昨年から続く半導体不足。でも、どうして不足しているの?その理由を探るために、ミニマルファブ推進機構・ファブシステム研究会にお邪魔しました〜。すると、すべてがミニマルなすごい装置が!!半導体の今と未来について、同研究会代表・原史朗さんにうかがいました!

半導体が不足している理由とは?
 家電製品が入荷待ち。半導体不足が原因でそんな状況が続いています。でも、どうして不足しているのでしょうか?よく言われているのが新型コロナウイルスの影響です。半導体は電子機器の頭脳としての役割があり、身のまわりのあらゆる製品に使われています。新型コロナによって家の中で快適に過ごそうと、パソコンや家電製品を多くの人が購入した結果、不足してしまいました。
 ほかにも理由はいろいろとあるのですが、見落としがちなのが、日本での半導体製造が以前よりも廃れてしまっていたこと。実は、二十数年前までは日本でも半導体は盛んにつくられていました。しかし、「これからはバイオの時代だ」、「医療のほうがビジネスになる」と、多くの企業が半導体の製造に力を入れなくなってしまっていたのです。
 ところが、身のまわりを見てください。今やあらゆる製品が電子化され、車だって電子機器がテンコ盛り。つまり、国内の生産量が減ったのに、需要が伸びていたというのが1つの大きな原因です。

まるでバケモノ!?
 それなら工場をたくさんつくればいいじゃないか、と思うかもしれません。でも、半導体は〝バケモノ〟みたいなモノなんです。どういうことかというと、製造工程は多いもので600以上あり、その工程のひとつひとつに幅が2mある製造装置が必要で、おまけに工場内は空気がキレイなクリーンルームでなければなりません。それらの条件を満たすには投資額が1兆円規模の巨大工場(メガファブ)を用意する必要があるんです。
 これだけ工場が巨大化してバケモノみたいになると、関わる人が多くなり、「徹夜してなんとかしよう!」なんてこともできませんし、すぐに工場を建てることもできません。だから半導体は急に生産量が増やせないんです。

大量生産の時代ではなくなった?
 半導体の工場が巨大化した理由の1つに、半導体の基となるシリコンウェハ(以下、ウェハ)の問題があります。ウェハを大きくし、1枚のウェハから数万個もの半導体チップをつくり出すことでコストダウンや生産性の向上を図っているのです。今は直径300mmのウェハが主流ですが、さらに大きなウェハで、もっと大量生産をしようという考えまであります。けれども、時代は本当にみんなで同じものを使う大量生産を求めているのでしょうか。
 世界的なIT関連企業であるグーグル(Google)の検索エンジンもアップル(Apple)のスマホもフェイスブック(Facebook)のSNSもアマゾン(Amazon)のショッピングサイトも、どれも個人に向けたサービスです。個人というのはワガママですし、一人一人、趣味趣向が違います。実は、彼らはそうした個別のニーズにどうすれば応えられるのか、個人がどうすればハッピーになるのかを朝から晩まで追求しています。大量生産をして、同じ規格のサービスを世界中の人々に使わせることを目標とはしていないのです。

図 ダイジングのイメージ/1枚のウェハに同じ回路パターンを格子状にいくつも焼き付ける。これを境界に沿って切り離し、1枚の半導体チップ(ダイ)にする。この工程はダイジングと呼ばれる

世の中は多品種少量を求めている!
 もう20年くらい前のことですが、コンピュータ科学者の坂村健先生はあらゆるモノにチップを設置し、ネットワークでつなげる「ユビキタスコンピューティング」という考えを提唱しました。当時、部屋中に1000個のチップを設置し、例えば、季節によって窓ガラスが自動で曇ったり透明になったりするなど、身のまわりのあらゆるモノをコンピュータでコントロールする研究を行っていました。ところが、ユビキタスの時代はやって来ませんでした。それはなぜでしょうか?
 1つは無数のチップ同士をどうやって交信させるのか、逆に不要な場合はどうやって交信させないのか、その仕組みをつくることができなかったのです。
 そして、もう1つが多品種少量のチップが必要になる点です。窓ガラスや家電製品など、そこら中にチップを組み込ませるには、それぞれに合わせたチップが必要です。
 坂村先生はモデルケースをつくりました。けれども、いざ企業がビジネスにしようと思っても、チップのバリエーションが多すぎて、しかも一種類一種類は少量しか必要がない。少しずつ違ったチップを多種類つくると、現行の大量生産工場では採算が取れなかったのです。
 ところで、あらゆるモノをネットワークでつなげると聞いて思い出すことはありませんか?最近、よく耳にする「IoT(Internet of Things/モノのインターネット)」も、実はこれと同じ考え方です。ただ、今でもせいぜいスマホと家電製品を交信させる程度で、ユビキタスが目指したようにあらゆるモノをコントロールできるまでには至っていません。それでもIoTという言葉が登場したように、世の中はあらゆるモノをつなげることを求めています。そう考えると、多品種少量の半導体をつくることには潜在的なニーズがあるのではないかと思っています。

すべてがミニマルな製造装置、爆誕!
 大量に同じ半導体を製造することに疑問を持った私たちは「究極の多品種少量生産」を目指し、「ミニマルファブ」という半導体製造装置の開発に10数年前から取り組み始めました。「ミニマル」とは「必要最小限」という意味です。
 1兆円規模の投資が必要なメガファブに対して、ミニマルファブは5億円規模。ウェハのサイズも直径12.5mm。ウェハが小さくなったことで幅が2mあった製造装置は30cmとコンパクトになりました。1つの製造装置で1つの工程が完了したら、ウェハは専用の密閉ケース「ミニマルシャトル」に格納され、次の装置へと運びます。このミニマルシャトル内と各製造装置のハンドリング部分はクリーンルームと同じ環境でウェハ自体は外の環境に触れることがありません。そのため、工場全体をクリーンルームにする必要がなくなりました。
 大量生産であればメガファブのほうが安く製造はできます。しかし、1万個規模であれば、メガファブでは1万円(1cm2)かかるところ、ミニマルファブでは1200円で製造できる計算になります。

図 メガファブとミニマルファブの比較

個人でも自分が望む半導体を手に
 現在、ミニマルファブは電子機器の研究開発や製品化の際に必要となる試作品の半導体をつくることに主に利用されています。試作品ですから数個の半導体しか必要ありません。それをメガファブでつくっていたら、コストが莫大にかかってしまいます。
 ほかにも、宇宙ロケット向け半導体の開発も手がけています。ロケットは何台も製造するものではなく、極端なことをいえば、必要な数量は1つだけという場合もあります。こうした少量生産の依頼や相談はたくさん寄せられています。
 とはいえ、ちゃんとした生産工場として企業に使ってもらうには、まだまだ解決しなければならない課題があるのも事実です。けれども、「こんな半導体が欲しいけど、需要がないからムリかな」と諦めていた人がミニマルファブで、「自分の好きな半導体をつくっていいんだ!」と思える世界にしたい、それが私の目標です。
 将来的には個人でも自分が望む半導体を数個だけ注文する、そんな時代が来るのではないかと考えています。そうしたニーズに応えられる製造装置がミニマルファブなのです。

工業高校生はどんな勉強をしたらいい?
 モノづくりって、ヤスリがけや、はんだ付けなどの作業も楽しいし、そうした技術を磨くことも大切です。でも、同時にその技術を使って実際にモノをつくってみると、モノづくりの全体像が理解できて、さらに面白味がわいてきます。だから、「技術を磨いていればいいや」で終わらず、工業高校生には何かしらの「モノ」をつくって欲しいですね。
 私の場合は小さい頃から工作が好きで、それを突き詰めていたら、とうとう半導体装置までつくっちゃいました。「小さいサイズの製造装置なんてできるはずがない」、「クリーンルームがないなんておかしい!」といろいろな人から言われましたが、実現しました。
 自分のアイデアが形になるってワクワクします。だから、モノづくりでワクワクする感じを皆さんも大切にして欲しいですね。

一般社団法人 ミニマルファブ推進機構/半導体などの多品種少量生産を可能とする革新的な産業システム(ミニマルファブ)の発展と普及を支援する団体。同機構の傘下であるファブシステム研究会には、各種装置メーカーや大学などが参加し、ミニマルファブモデルを具現化する活動を行っている。同機構は、総合国立研究所として最大の国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研/左写真)内にある。原さんはミニマルファブを2008年に産総研の研究員として発明し、後に同機構を設立した。

文=阿部 伸/写真=小泉 真治