つながる町工場、現場に潜入! 東京町工場ものづくりのワ【後編】

──今後の目標は何ですか?
稲葉さん お客さんともIoT でつながる仕組みを作りたいと思っています。まだ発表できないこともありますが、例えば、サイトに登録すると注文履歴が見られるようにするなど、いろいろなことを計画しています。ゆくゆくは、これまでの町工場のイメージを打ち破るようなサービスが展開できたらいいですね。

宮本さん 仕事を受注する上で大事なことは品質です。でも、中小企業って自社製品の品質をきちんと評価して客観的に伝えることが苦手なんです。「ベテランの職人が溶接したから大丈夫です」で通しちゃうみたいな(笑)。なので、ベテランの職人の技能を数値化し、「ちゃんと溶接ができていますよ」と品質を証明するシステムを作っている最中です。これができると人材育成にも役立つのではないかと思っています。

稲葉さん 実は、人材育成はグループとして今後の大きなテーマなんです。中小企業はどうしても人材育成に力をさけません。また、職人も口下手で学校の先生のように上手に教えることが苦手です。そこで、新人を効率よく一人前に育てるツールの1つとして、先ほどの「数値化」を活用したいと思っています。そして、3社のうちどの企業に就職しても、ちゃんと一人前の職人や管理職、社会人として成長できる仕組みを作って、より多くの人材やお客さんが集まるグループにしていきたいと思っています。


──高校生はどんな勉強をすればいいですか?
稲葉さん IoT やインダストリー4.0と聞くと、ものすごく最先端で特殊な知識が必要と思うかもしれません。でも、まずは学校で習う基礎的な部分をしっかり身につけてほしいと思います。例えば、足し算ができなければ、かけ算もできませんよね。ベースがしっかりしていないと、何をやっても「レベルが高過ぎ!」と思えて、「自分はついていけない…」とあきらめてしまいがちに。そんなのはもったいない!

宮本さん 親とちゃんと会話をする程度のことでもいいので、大人と話す機会を持って欲しいですね。社会に出ると、黙っているだけでは親切に教えてくれる人はいません。ベテランの職人にも自分から積極的に話しかけていけるようになる練習ができるといいと思います。

──10年後、モノづくりの世界って、どうなっていると思いますか?
稲葉さん 今は大企業が中小企業に仕事を発注するのが普通ですが、IoT やAI(人工知能)の普及などで中小企業が今以上に専門的な部品を作れるようになると、その立場が逆転する可能性があります。大量生産のノウハウを持っている大企業に対して、中小企業が専門的な製品を作るノウハウを提供し、大企業がそれを大量生産するという形です。

あるいは、単純な仕事をAI がする代わり、より専門的なことを人が行うようになると思います。でも、どんなに技術が進んだって、モノづくりは結局、最後は「人」。例えば、金属の収縮を考えて、いかに歪まないように溶接するかといったことは、技術とともに感性が求められます。工業製品は感性で作られているからこそ感動するんです。格好いいことばかりじゃないけれど、泥臭い仕事もたくさんして、経験を積んだ人は、社会から求められる人材になると思います。

宮本さん 10年後には多くのベテランが引退して、確実に職人の数が減りますからね。技術と技能をしっかりと磨いた人にとっては、これからのモノづくり産業には、たくさんのチャンスがあると思いますよ!

東京町工場ものづくりのワ
http://www.machikoba.tokyo/index.html

〈春号 vol.2(2018年4月発行)特集インタビューより〉

取材・文= 小泉 真治  写真= 高永 三津子

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