日本IBMのスゴ腕エンジニアに聞いてみた。「AIはオトモダチ?」

将来、AIに仕事って奪われるの!?
〜都立 町田工業高校のP-TECH〜

〈vol.11 秋号(2020年10月発行)より〉

今、都立町田工業高校で、とある計画が進行中だという。それはITやAI(人工知能)に関する勉強を高校生に教える「P-TECH」なるものだとか。ITとかAIって、あれでしょ?ターミネーターとか、仕事が奪われちゃうかもしれないとか、そういう危ない未来のロボット的な!!これは大変だ!

というわけで、我々、取材班は真相を確かめるべく、日本IBMのかな〜りすごいエンジニア・難波かおりさんに突撃インタビューを行ったのであった!

AIはターミネーターみたいに恐ろしい?

ーー工業高校生になんか、こう、未来の恐ろしい感じのことを教えているって本当ですか!?

え?ぜんぜん違いますよ(笑)。今、私たちはP-TECHといって、IT人材を育てるプロジェクトを東京都教育委員会や都立町田工業高校(以下、町工)などと連携しながら行っているんです。

ーーえっ、そうなんですか?具体的にはどんなことをされているのでしょうか?

今学んでいることが実際に社会ではどのように役立っているのかなどを話したり、ソフトウェアやC言語などの専門教科に対して授業を行ったり、課題研究のコーチングを行ったりしています。最初おとなしかった生徒さんが回を重ねるごとに積極的になり、自分の意見を話すようになると嬉しいですね。「こんなことをしてみたい!」と生徒さんからアイデアが出てきたときは、思わず「いいね!」と声を上げてしまいました(笑)。

ーーなんだか楽しそうな授業ですね!すみません、我々、勘違いしていました。とはいえ、ITやAIって、ターミネーターとか冷徹なロボットのイメージが…。

実際に町工でアンケートを取ったら、「恐ろしいものだと思っていました」という回答がありました。でも、お掃除ロボットやインターネットの検索エンジンなど、すでに身近なところでAIが使われていることを知って、誤解であるとわかってもらえました。

AIで仕事が奪われることもある?

ーーただ、AIに仕事が取って代わられるなんて話も…。

自動販売機が登場した当初は、仕事が奪われるという理由から商店などからの反発が多かったそうですが、今では生活に欠かせなくなりましたよね。それと同じようなことがAIでも起こると思います。
何よりもAI技術は人を助けるものです。例えば、病気の患者さんの遺伝子から最適な治療方法を見つけるなど、よりよい社会をつくっていくために使うもの。このような「社会をよくしよう」という気持ちで開発した技術をIBMでは「Good Tech」と呼び、創業以来その姿勢を大切にしてきました。

自分のコードが世界を変える!

ーー難波さんがソフトウェアエンジニアを志したきっかけは?

もともと科学が好きで、大学では物理学の研究をしていました。でも、就職を意識したとき、自分の好きなことを追うのではなく、もっと世の中の役に立ちたいと思うようになり、モノづくりに興味がわいたんです。そして、私がつくれるモノはソフトウェアだろうと考え、日本IBMを就職先に選びました。

ーー研究者からいきなりエンジニアに!?

就職するまで工業系のことを学んでこなかったので、入社当初は大変なこともありました。町工を訪れた際、「高校でこんなことを勉強するんだ!」とビックリしましたね。普通は会社に入ってから学ぶことをすでに学んでいるんですから。今の工業高校はすごくいい勉強をしているなと感心させられました。

ーーソフトウェア開発のやりがいは何ですか?

製品がリリースされた瞬間から、自分の開発したコードが世界中で動き出すこと。世界経済の中心地などで自分がつくった製品が使われていると、「私が世界を動かしているのかな」なんて、ちょっぴり自慢に思うことも。真夜中に問題が起きて対処しなければならないときは大変ですけどね(笑)。

ーー舞台は世界だ!というわけですね。そんな難波さんから見た日本のIT産業の課題は?

人手不足の問題もあり、日本はデジタル化が遅れています。最近、新型コロナの給付金で手続きに時間がかかることが問題になりましたが、そういう部分でもIT人材の不足やデジタル化の遅れを感じます。

ーーそれを解決する取り組みがP-TECHですね?

そうです。P-TECHはアメリカで生まれ、今では世界的に取り組みが広がっています。日本では2019年から町工と連携して取り組みが始まりました。
IT業界は技術の進歩が早いため、社会人になってからも学び続ける姿勢や、新しいものに好奇心を持つ姿勢が大切です。なので、P-TECHでは知識だけでなく、ITに対する姿勢も学べるようなカリキュラムを組んでいます。

モノづくりの真髄は〇〇を忘れないこと!

ーー難波さんはどんなことを大切にしてモノづくりをしていますか?

モノづくりの本質は使う人が喜ぶものをつくることだと思っています。以前は技術ばかりを追いかけてソフトウェアをつくっていた時代がありました。でもそうすると「これ誰が使うの?」なんて機能も多かったり…。今は「デザイン思考」といって、使う人の立場になって本当のニーズを理解してからつくっていこう、という考え方が広まっています。そうした「使う人を忘れずにつくる」ということが、私にとってのモノづくりの真髄ですね。

ーーこれからのIT業界を担う世代にエールを!

ITは“業種の枠を越えて使える”技術。だから、ITに関する技術がある人は、どんな職業に就いても重宝されるでしょう。それを若いうちから勉強できるのは、将来とてもプラスになります。昔も今も、そして未来も、工業の力が大切だということは絶対に変わりません。特にIT技術は、新型コロナなどの影響で新しい生活スタイルが求められるこれからの時代には欠かせないもの。ぜひITを学んで、私と一緒に未来を切り拓いてくれる人が増えることを願っています!

写真=小泉 真治
photograph KOIZUMI SHINJI