〈vol.10 春号(2020年4月発行)より〉
第5回 カメラは見た!あのシミを!!
画像処理がロボットの世界を変える!?
ここは「画処ラボ」。とある給食センターの職員さんが持ち込んだ食器に紫外線ライトを当ててみると…なんと!カメラは見てしまったのです!! ̄ロ ̄)というワケで、産業用ロボットを構築する職業「ロボットSIer」の仕事ぶりを探る本シリーズ。今回は画像処理にまつわるお話です。でも、ロボットと画像処理にいったいどんな関係が!?
画像処理システムがロボットを変えた?
お邪魔したのは日本サポートシステムが運営する生産装置の技術検証を行う施設「画処(がしょ)ラボ」。“画処”とは画像処理の略なんだそうですが、そもそも産業用ロボットと画像処理にはどんな関係があるの??
「いろいろな技術を組み合わせることで目的通りに稼働するのが産業用ロボットです(詳しくは下記の「産業用ロボットとは?」参照)。その“いろいろな技術”の中でも、近年、注目されているのが画像処理システムなんです」と、解説してくださったのは同社の藤野友希経営企画本部長。藤野さん、本日はよろしくお願いしますm(_ _)m
それで、なぜ画像処理システムが注目なんですか??
「従来の産業用ロボットは単純な作業工程で利用されてきました。しかし、最近ではロボット自身が部品などを確認・認識し、判断をしながら作業するといった高度な作業ができるようになってきたんです。それを実現している技術こそが画像処理システムです。ロボットにとってカメラは対象物を確認するための“目”、画像処理装置は対象物を認識し、判断するための“脳”にあたります。つまり、画像処理システムはロボットにとっての“視覚”なんです」
なるほど、ロボットが“視覚”を手に入れたことで、行える作業が増えているんですね。
そのとき、扉を叩く音が…
「ただ、課題もあります。暗い所から明るい所に移動した際に素早く適応するなど人間の視覚のメカニズムは複雑で、再現するのは難しいんです。そこで産業用ロボットを導入する際には、目的の物品がちゃんと検知できるのか、画像処理システムの検証を行う必要があるんです。画処ラボはさまざまなメーカーの機器を揃え、それらを組み合わせて検証が行える施設です。産業用ロボットの導入を検討されているお客様にご利用いただいていますm(_ _)m」
とそんな話をしていると、扉を叩く音が…。
Aさん「あの〜、この食器の汚れ、検知できますか?」
カメラは見た!あのシミを!!
Aさんは大型給食センターの職員さん。食器の傷や汚れを自動で検知できないか相談に訪れました。現在は洗浄後に大量の食器を人が目で見てチェックしていて、その作業を自動化したいというのです。
「どんな物品の何をどの程度検知したいのかによって選定する機器が変わってきます。例えば、この食器なら全体を検査したいのか、縁だけでいいのか、それによってレンズが変わります。また、どの程度の画質を求めるのかによってカメラも変わります」。
そして、意外と重要なのが照明なのだとか。「設置する場所や角度、光の色によって見え方が変わるんです。また、場合によっては紫外線のような特殊な光を当てることもあるんですよ」。
Aさんの食器は通常の照明では何も検知されませんでした。しかし、紫外線ライトを当ててみると…。
「汚れに含まれる油分は紫外線を吸収して発光する性質があるんです。そのため、紫外線を使うことで今回の汚れを検知できました。画像検査を検討する際、これまで多くのお客様は画像機器メーカーなどに相談していました。メーカーに相談すると、そのメーカーの機器を使ったシステムで検証が行われます。でも、例えば、そのメーカーが紫外線ライトに注力していなかったら、今回のような汚れは検知できないかもしれません。ロボットSIer(エスアイヤー)という立場の私たちだからこそ、さまざまなメーカーの機器の中からより最適なシステムを構築することができるんです」
日本を救うロボットSIer
シミを見事に検知した藤野さんたち。2時間ほどで検証は完了し、レポートをAさんに渡します。
「これまで当社のような企業はメーカーの下請けのイメージがありました。しかし、最適なシステムを構築するにはロボットSIerの存在が重要だということが最近では広く知られるようになりました。そうした潮流を背景に、昨年、当社を含む複数のロボットSIer企業と『Team Cross FA(チーム・クロス・エフエー) 』という共同事業体を創設したんです。公的機関や大手企業と連携をしながら工場の自動化に関する事業をより広く展開する中で、ロボットSIerに対する世間からのニーズの高まりを日々、感じています」
しかし、現在、ロボットSIerの数は足りていないのだとか。「新しい職業なので一般的に知られていないんです。でも、人口が減っている日本において、人の代わりに働くロボットは不可欠。日本の経済を支えるためにもロボットSIerの育成は急務です」。
ロボットSIerの会社で働くには、やっぱりロボットに詳しくなくちゃ、ダメですよね??
「当社では装置の設計から設置まで行い、部品加工の工場も営んでいます。他にも大学との連携や展示会への出展にも力を入れていて、技術職や営業職、企画職などさまざまな仕事があります。産業用ロボット自体、いろいろな技術を組み合わせた集合体なので、いろいろな人の力が必要なんです。だから、こういう知識がないとダメ!ということはないので、いろんな方に興味を持ってもらえると嬉しいですね」
人手不足で困り果てていたAさんは、その後、画処ラボで検査の自動化に向け、具体的に話を進めているそうです。Aさんのように人手不足で悩んでいる企業は日本にたくさんあります。そんな困っている人々を将来救うのは皆さん!かもしれません^^
会社のスローガンは「FUN to CHALLENGE」。楽しみながら、いろんな挑戦をしています!by藤野さん
文= 阿部 伸/写真= 高永 三津子
text ABE SHIN / photograph TAKANAGA MITSUKO