Google 月面探査レースに挑んだ HAKUTO の“今”を追う!

2020年冬号 Vol.9 掲載

民間発、月への一番乗りに挑戦!

NASAが月面に宇宙飛行士を送り込む!?中国の探査機が月の裏側に着陸した!やっぱり外国の技術ってスゴいな〜。ちょっと待った!日本の民間企業だってアツいんです!あのGoogleの月面無人探査レースに日本チームを率いて参加した株式会社のファウンダー兼CEOの袴田武史さんに、なぜ再び月が注目されているのか、日本の月面探査は現在どうなっているのかなど、月面開発の最新情報を聞いてきました!

HAKUTO-Rのローバーとランダー

期待を背負うも“勝者なき終了”

Googleがスポンサーとなって開催された月面無人探査レース「  (以下GLXP)」は、アメリカ、ドイツ、イタリアなどさまざまな国からチームが参加。その数は34組にものぼり、世界的な盛り上がりを見せました。

日本から参加した唯一のチームは当時、多くのメディアでも取り上げられた「HAKUTO(ハクト)」。JAXAや大学の研究機関をはじめ、多くの有名企業がスポンサーやサポート団体となり、HAKUTOの活動を後押し。その様子はまさに“ワンチーム”そのものでした。ところが…。

HAKUTOはローバー(月面探査機)を月面に運ぶ際、インドの「チームインダス」が使用するロケットと相乗りする予定でした。しかし、チームインダスがロケットの調達に失敗。次なる施策を見出せないまま、2018年3月にレースは期限を迎えます。

結局、参加した全チームが打ち上げを成功させられず、“勝者なき終了”という結末に。このニュースに世界中の宇宙フリークが落胆したのは記憶に新しいところです。いえいえ、誰よりも落胆したのは袴田さんでしょう。

挑戦し続けてこそ産業は育つ

「最後まで飛べると信じて可能性を探りました。だから、断念したときには本当に悔しさでいっぱいでした。優勝者は出ませんでしたが、民間による宇宙開発が加速し、一般の方たちにも宇宙がより身近に感じられるようになったことは確かですね」と袴田さんはレースの意義を語ります。

「宇宙事業は話題性が大きく、一回の挫折が目立ってしまいがち。でも、それを乗り越えて挑戦し続けないと産業は育ちません。失敗の原因をしっかり分析して、次へのにすることが大事なんです」

そう、袴田さんはあきらめていませんでした。クールな表情とはうらはらに、メラメラと闘志を燃やしていたのです。

「GLXPは終わっても、ispaceでは引き続き独自のプログラムで民間初の月面探査の実現を目指しています。でもその話をする前に、HAKUTOが開発したローバーのヒミツをもっと知りたくありませんか?¯ー¯)ニヤリ」。ぜひ聞きたいです!

日本のモノづくり力が結集した軽量化作戦

「ローバー開発で苦労したのは軽量化です」という袴田さん。打ち上げ費用は重さによって決まり、そのお値段は1kgあたり、なんと1億円以上!資金との戦いでもあるGLXPでは、ローバーは軽ければ軽いほど有利になります。

「プロトタイプは重量が10kgでしたが、資金調達のことを考えれば軽量化が必須でした。エンジニアと何度も検討を重ねて、最終的に4kgを目指すことに。本音を言えば、コストを抑えるために1kgでつくりたかったんですけど、さすがにそれは『ムリ!!』とエンジニアから怒られました(笑)」

その日から、徹底的な軽量化への挑戦が始まります。しかも、単に軽いだけではありません。目指すのは月面探査に耐えうるだけの強度があること。

「重量の大部分は、ボディなどの構造物です。アルミニウムをカーボン材に変更し、代替できない金属部品はチタンなどより軽い特殊金属にしました。さらに部品の中を空洞にしたり、ネジの頭部をくり抜いたり。そうやってコンマ数グラムの軽量化を積み重ねたんです。高い技術力が必要な加工は、町工場の職人さんの力を借りることも。まさに、日本のモノづくりの力が結集した軽量化作戦でした」

GLXPのミッションクリアに必要な機能以外は徹底して削ぎ落とし、ストイックに軽量化を追求。その結果、見事4kgを達成!「私たちの次に軽いローバーでも10kgオーバーですから、圧倒的な超軽量化ですよ」と袴田さんは胸を張ります。

デザインも機能の一部なんです

それにしても、HAKUTOのローバーは見た目がカッコいいですよね〜。

「よくぞ聞いてくれました。まわりからは『なぜデザインにこだわるんだ?重量も増えるし、設計も大変じゃないか』と言われたこともありました。しかし、私は『デザインも機能の一部』だと思っているんです。HAKUTOの挑戦を世の中の人に認知してもらうためには、人を惹きつけるデザインでなければいけません。このデザインに決定するまで、試行錯誤を重ねました」

そうまでして完成させたローバーが月へ行けなかったのは、やっぱり残念すぎます…。「大丈夫。月への挑戦は『HAKUTO-R』に引き継がれています」。

ナニナニ、そのHAKUTO-Rとはいかに??

今度はHAKUTO-Rで“世界初”を目指せ!

「HAKUTO-R」とは、ispaceが進めている世界初の民間月面探査プログラムのこと。まず2つのミッションの実現を目指しているのだそう。

「1つ目は、2021年までにランダー(着陸船)を月面に着陸させること。そして2つ目は、2023年までにローバーを搭載したランダーを月に着陸させ、月面を探査することです。今は試作機のランダーで各種試験を進めている段階で、来年には実際に月に行くフライトモデルの組み立てが始まる予定です」

ランダーまで独自で開発するのは大変そうです…。実際にどんな難しさがありますか?

「実験は月と同じような真空状態を再現して行うのですが、ローバーに比べて機体が大きいランダーは収容できる実験施設が少ないんです。また、軌道や姿勢の制御のために使うエンジンなどの推進系システムを開発するのも苦労が多いです。でも、大型の衛星で実用化済みのシステムを活用することでリスクを減らしたり、軟着陸に必要な難しい制御技術も、アポロ計画に携わったアメリカの研究所と協力しながら着実に開発を進めています」

本社ロビーには歴代の試作機などがズラリと展示されている

日本の宇宙技術レベルと今後の課題

日本の民間企業による月面探査の実現は、もうすでに秒読み段階。これは日本の宇宙技術が世界でもトップレベルということでしょうか!?

「そう、小惑星の表面の物質を地球に持ち帰った『はやぶさ』のサンプルリターン技術は、あのNASAも驚いたほど素晴らしいものです。そしてロケット打ち上げ技術や、宇宙船とのドッキングの精度も非常に高いレベルにある。ですが、その技術を商業的に生かせているかというと、他国と比べて大幅に遅れを取っているのが実情です。これからの宇宙開発は国や研究機関によるものだけでなく、民間企業が積極的に参入して商業ベースに乗せ、高すぎるコストをどう下げるかなどの課題を解決していく必要があるでしょう」

2019年12月に撮影されたispaceチームの集合写真

今、民間企業が月を目指すワケとは??

あの〜ずっと気になってたんですが…アポロ17号を最後に、50年近くも本格的な月面探査は行われてきませんでした。なぜ今になって民間企業が月を目指すのでしょう??

「地球の豊かな生活は、GPSや気象衛星など、宇宙のインフラで支えられています。今後、が発展してインターネットサービスも宇宙から提供されるようになると、その重要性はさらに高まるでしょう。そうした宇宙インフラを効率的に維持していくために必要な“ある資源”が、月には眠っているんですよ」

え、月にはウサギがいるだけじゃないんですか?

「……。」

失礼しましたm(_ _)m いったい、それはなんでしょうか??

「水なんです。水は水素と酸素に分解すればロケットの燃料になります。今、地球で重要なエネルギー資源は石油ですが、これからの宇宙時代は、水が石油に代わる資源になる可能性があります。宇宙インフラの維持管理のために膨大なコストをかけて地球からロケットを打ち上げるより、宇宙で月の水資源を活用しながら維持管理をするほうが効率がよく、経済的にも理にかなっているんです」

もはや宇宙は特別な場所ではない

ispaceは、2040年には月面に1,000人が住み、年間10,000人が月を訪れるだろうと予想しています。

「月面開発が進んで基地ができると、人が行き来するようになります。すると、基地をつくるための建設業だけでなく、金融や通信、医療や教育といった多種多様な産業が、地球と同じように宇宙の場でも生まれます。そして宇宙で発展した経済が、地球に住む人々の生活を支えるようになるかもしれません。人間の生活圏を宇宙に広げていくことは、持続性のある世界をつくる上でとても重要なんですよ」

最後に袴田さんは、これからの宇宙時代に向けて、こう語ってくれました。

「よく『月面開発なんて夢みたいな仕事ですね』と言われますが、そう言われるうちはまだまだ。夢が夢ではなくなり、月に行くことが当たり前の世界をつくりたいんです。宇宙は特別な場所ではありません。単なる“場”として、人間の活動のフィールドが広がるだけです。私たちの手でそれを実現し、産業として発展させたいと思っています。将来、皆さんと月で一緒に働けることを楽しみにしています!」

写真提供:ispace

株式会社ispace
東京本社 東京都港区芝2-7-17 住友芝公園ビル10F

文= 小泉 真治/写真= 高永 三津子
text KOIZUMI SHINJI / photograph TAKANAGA MITSUKO

〈vol.9 冬号(2020年1月発行)より〉

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