“怪物”から“芸術品”を生み出す匠たち 昭和電気鋳鋼株式会社

現場では「一言」が大切

同社には社員が100名ほどいる。手塚社長は3年前から社員一人ひとりと面接をする試みをはじめた。「会社への不満や要望などを聞いてまわっています。すると、会社全体で何か行事をやりたいという意見が多くて、先日、バーベーキュー大会を開いたんです」。
参加者は110人。キャンプ場にテントを張り、ゲーム大会や新人インタビューなどを行った。

「普段、会話を交わさない同僚と仲よくなるきっかけになり、仕事にもいい影響があったと思います。現場では、急ぎでやらなくてはいけない作業が発生することがあります。そのとき、一言声をかけるだけでスムーズにいくんです。力を合わせて、質の高い製品をつくり上げようという一体感が今まで以上に生まれたように思います」

神様の領域との折り合いで

鋳鋼は「生き物」だ。その日の気温や湿度、材料の配合などによって品質が大きく変わる。

「鋼はがねが溶ける温度は決まっています。溶けた鋼は湯(ゆ)と呼ばれ、湯は上から下に流れます。そして、冷やせば固まる。これは誰がやっても変わらない原則で、言わば、自然界で起こっていること、神様の領域なんです。そこにどう人間の手を加え、折り合いをつけながら、満足のいく製品をつくっていくのか。ここに鋳鋼の難しさがあり、同時に奥深さもあるんです。その奥深さに魅力を感じ、チャレンジする若い人たちが増えてくれるとうれしいですね」

湯を鋳型に流し込む瞬間。ド ロっとしていて、火が吹き上がり、本当に生きてるみたい

群馬県高崎の地で、すぐれた鋳鋼製品を発信する昭和電気鋳鋼。ここで働く職人さんたちは怪物をあやつる猛獣使いのようであり、神の領域と向き合う聖職者のようでもあり。それはつまり、世界に誇る、どこよりも強くて芸術的な鋳鋼製品を生み出す匠たちの町工場だった。

昭和電気鋳鋼株式会社
群馬県高崎市倉賀野町3250番地

〈夏号 vol.3(2018年7月発行)より〉

文= 阿部 伸/写真= 高永 三津子 text ABE SHIN / photograph TAKANAGA MITSUKO