お笑いコンビ『馬鹿よ貴方は』新道竜巳の「馬鹿よ青春」第15回 「お笑い芸人を目指したワケ」

 進路、決まっていますか?僕は意欲的に行動することがない中学生で、唯一、熱中したのがゲームだった。勉強はしたかったけど、集中するコツが見つけられず、机に向かって時間が過ぎるのを待つだけ。その頃、深夜ラジオが何よりも楽しくて、リスナーからの葉書で「受験勉強中」と読まれると「自分もそうだぞ」と仲間意識を燃やし、物理的に机に向かった。
 なんとか高校に入学したある日、家に電話がかかってきた。塾の営業だった。まんまと乗せられ、塾通いが始まる。塾の近所のゲームセンターで遊ぶのが楽しみで、塾通いは怠ったことがないけれど、勉強はついていけず。家族とはあまり会話がなく、一人行動が多かったため、ゲームセンターといえども、1つやりたいことがあると暮らしが少し豊かになった気がした。唯一の心の支えだった。結局、大学に行く学力は身につかず、恥ずかしくて受験すらしなかった。
 母が「これからどうするの?」と何度も詰め寄ってくる。そのとき、テレビでドラマが流れていて、思わず「テレビに出る人になる」と答えたことで、役者を目指すことに。すると母が専門学校と新聞配達のバイトをセットで探してくれて、上京が決まった。
 お客さんの家に集金に行くと「自分で学費を稼いで偉いね」と言われ、でも、妥協で役者を目指しているだけなのでピンとこない。専門学校に行っても何を勉強しているのか分からない。漢字が読めないものだから台本読みをするだけで、笑いが起こる。ゲームセンターに通い、心を落ち着かせる。その繰り返し。
 ある日、誰かが、台本読みで笑いが起こる僕を「お笑い芸人なったら?」とイジってきた。「ああ、役者は正解が分からないけど、お笑いならウケることが正解だから、答え合わせができる」そう思い、卒業後、太田プロダクションのお笑い養成所へ。たった3か月で卒業だったけど、専門学校の2年間よりも、はるかにいろいろと考えることができた。
 自分が自分の意志で笑いを取らなければならないという作業が台本が用意された役者に比べると、力の入れ所が分かるような気がした。スベれば間違い。ウケれば正解。この分かりやすい答え合わせに気づいたことで、誰かのイジりから始まったお笑い芸人への道は本当になりました。芸人、サイコー!
イラストレーション=本田しずまる
新道 竜巳
お笑いコンビ「馬鹿よ貴方は」のツッコミ、ネタ作り担当。コンビとして「THE MANZAI」や「M-1 グランプリ」の決勝に残るなど実力派として知られる。2018 年オフィス北野からサンミュージックへ移籍。