お笑いコンビ『馬鹿よ貴方は』新道竜巳の「馬鹿よ青春」第8回

2020年春号 Vol.10 掲載

第8回「本気の恋」

ラブレター、書いたことありますか?中学のとき、同じクラスのを半端じゃなく好きになった。背が低く、髪はショートで、くせっ毛のため少しウェーブがかかっていた。今でもこの条件を満たしていれば、後ろ姿だけで好きになってしまうことがある。

この娘は誰とでも分け隔てなく接するので、僕とも挨拶をする仲になり、でも緊張でそれ以外に絡むことができない。あるとき、サッカー部のイケメンが好きだという情報が漏れ、席替えのとき、まわりが協力してその男の隣に座らせるという、いらんことをし、僕はその男が嫌いになった。いつもむように見ていたせいか、そいつの顔は今でも鮮明に覚えている。

何もアプローチできずに中学を卒業してしまった。高校は別々だけど、30分早い電車に乗ると駅で会えた。彼女は僕を見かけると手を振ってくれ、それが楽しみで遅刻魔だった僕も早く家を出る日が頻繁にあった。

時間が経つほど「好き」の濃度は濃くなった。もう告白しようと思ったが、会うだけで異常な心臓音で会話もできなくなってきた。そこでラブレターを制服の内ポケットに入れ、いつでも渡せるようにして駅に向かった。今日も挨拶だけ。次の日も…。好きすぎて挨拶だけでミッションがクリアしたように安心してしまう。

夏休み、図書館に行くと彼女が勉強していて、僕もやけに図書館に通うように。そこで彼女は同じ中学のサッカー部のガリ勉とよく一緒にいた。なぜこんな奴と…と睨んでいたせいか、そいつの顔は今でも鮮明に覚えている。夏が終わった頃、今度は僕と同じ高校の男と歩いているのを見かけた。そいつは中学で同じクラスだった奴で、そいつと仲よくなれば会話の機会が増やせると思い、仲よくなり、僕もおまけで会話ができるようになった。でも、そいつと彼女は異常に仲がいい。くそー。だんだん嫌いになり、睨んでいたせいか、そいつの顔は今でも鮮明に覚えている。

そして気づけば高校3年、噂が流れてきた。あの娘はサッカー部のエースと付き合っているらしい。サッカー部ばっかりじゃねーかよ。僕はそのせいか、サッカーは見ない。あっという間に高校も卒業となり、制服も着ることがないと思いながら脱ぐと、内ポケットに何か違和感を感じる。取り出したら渡そうと思っていたラブレターがまだ入っていた。

イラストレーション=本田静丸

〈vol.10 春号(2020年4月発行)より〉

新道 竜巳

お笑いコンビ「馬鹿よ貴方は」のツッコミ、ネタ作り担当。コンビとして「THE MANZAI」や「M-1 グランプリ」の決勝に残るなど実力派として知られる。2018 年オフィス北野からサンミュージックへ移籍。