お笑いコンビ『馬鹿よ貴方は』新道竜巳の「馬鹿よ青春」第10回 高校デビューで偽りの3年間

2021年冬号 Vol.12 掲載

高校デビューという言葉を知っていますか?自分の評価が低いことに対する不満から、進学のタイミングでキャラ変して表面的な評価を上げることです。
 僕の時代、ヤンキーはモテる、敬語で話される、いち目置かれる、そんな存在でした。勉強も運動もできない僕は、ヤンキーが理想の評価のされ方だと思いました。でも、中学で努力したことは格闘ゲームの「ストリートファイターⅡ」ぐらい。ヤンキーとは程遠く、これではいち目置かれるのは難しい。そこで高校の登校初日、いち目置かれるぐらいのリーゼントにし、寡黙に振る舞うことで得体のしれない怖さを演出しました。
 朝礼で静かに校長先生の話を聞いていると、後ろから「どこから来たんですか」と敬語で話しかけられました。「袖ヶ浦市だけど」と暗めに答えると、今度は僕のご機嫌をとるような笑顔で「中学校はどこなんですか」とさらに下手に出てきました。「これが上に立つ感覚か」とその心地よさに満足し、これから毎日、学校に楽しく行けると思ったのですが…。
 キャラ変のおかげで、まわりから敬語で喋りかけられ、呼び捨てにされず、「理想」の状態。でも、本来お喋りの僕はこのキャラがつらくて疲れます。同級生と喋りたい欲が日増しに高まり、ふと入った古本屋のおばちゃんとの何気ない世間話が楽しくて楽しくて。その後は、学校では寡黙な男を演じ、下校したら古本屋に飛び込み、おばちゃんと3時間以上喋り続ける日々。この表と裏の顔を使い分けた3年間で、気づけばおばちゃんからお菓子をもらうまでの仲になり、おばちゃんと会っていない時間はゲーセンでストⅡをひたすらやるという、超オタクな人間になってしまいました。
 高校3年のある日、もう普通に喋ろうと思い立ち、思い切って喋るとすごく楽しくて、1か月で全員がタメ口になり、呼び捨てで呼ばれるようになりました。でも、逆にそれが心地いい。
 表面的な評価は何にも意味がないことに3年間かけて気づきました。僕は理想のキャラになれたものの、それと引き換えに高校の思い出が鏡の前でリーゼントをセットしている自分ぐらいしかありません。皆さんも自分を偽ると評価を変化させられますが、友だちができず、思い出がなくなるのでお気をつけください。人生楽しむには等身大の自分でいることだと思います。

イラストレーション=本田しずまる

新道 竜巳

お笑いコンビ「馬鹿よ貴方は」のツッコミ、ネタ作り担当。コンビとして「THE MANZAI」や「M-1 グランプリ」の決勝に残るなど実力派として知られる。2018 年オフィス北野からサンミュージックへ移籍。