お笑いコンビ『馬鹿よ貴方は』新道竜巳の「馬鹿よ青春」第5回

2019年夏号 Vol.7 掲載

第5回「夜遊び」

皆さん、夜遊びしたことありますか。

高校生の頃、両親が寝静まると起き上がり、髪型をビシっとリーゼントに決め、そっと玄関を開け、静かに…静かに…外に出て、仲間の所に行くことが楽しくて仕方がない時期がありました。そう、夜遊びです。

連日繰り返すとさすがに母親に気づかれて怒られました。「あんた、夜中に何してるの!」「マラソンだよ」「そんなウソ誰が信じるの!今度、夜遊びしたら、鍵閉めるからね!」こんなやりとりがありました。

…本当にマラソンをしていました。僕は、煙草は吸わない、授業はさぼらない、リーゼントにはしている。それだけの高校生でした。それに不良の友だちがいないため、遊ぶといったらマラソン、鉄棒、ブランコが主でした。仲間と夜、隣町までジョギングをしていただけなのに、信じてもらえず困っていました。

ある日、また怒られました。「いい加減にしなさいよ!」「何が?」「最近、朝帰りまでするようになって!」「え、朝帰りなんかしたことないよ」「そんなに外に行きたいなら出ていきなさいよ!」。

このとき、怒り狂う母親を説得できませんでしたが、ここで誓います。本当に朝帰りなど一度もしたことはないのです。夜、マラソンから帰り、次の朝5時にカブトムシを取りに行ったことがあるくらいです。あ。

おそらく、ジョギングとカブトムシ取りのセットを、夜から朝にかけて不良仲間と遊んでいると間違えたのかもしれません。しかし、マラソンを信じない母親に、カブトムシのことを信じてもらえるだろうか。飼育箱のカブトムシが日増しにウジャウジャ増えていくところを見せたらよかったか…いや無理だ。僕はカブトムシが好きなあまり、夕方にも取りに行っている。夕方だけの“稼ぎ”と思われるだけだ。今考えてもどう説得していいかわかりません。誰か教えて下さい。

毎日ジョギングをしていると、どんどん走る喜びが高まりました。ある日、スイスイ走って気分よく家に帰ると鍵が閉まっていました。「お母さん、開けて!」「もう外で一生生活しなさい!」「ゆるして…」。

何度もリーゼント姿で謝り、やっとドアを開けてくれました。「汗びっしょりじゃない、夜遅く何してるのよ」「マラソンだよ!」「どうだかね」マラソンだよ!!!!!!

イラストレーション=本田静丸

〈vol.7 夏号(2019年7月発行)より〉

新道 竜巳

お笑いコンビ「馬鹿よ貴方は」のツッコミ、ネタ作り担当。コンビとして「THE MANZAI」や「M-1 グランプリ」の決勝に残るなど実力派として知られる。2018 年オフィス北野からサンミュージックへ移籍。