未来を照らす救世主 謎の職業「ロボットSIer(エスアイヤー)」の正体を探れ! 第2回

未来を照らす救世主
「ロボットSIer」の正体を探れ!
第2回 構想設計ってどんな仕事?

前回までのあらすじ…ロボットSIerの正体を探るべく、産業用ロボットの展示場「スマラボ」を訪れた取材班。そこで出会った親切なスタッフ天野さんに、「人手不足を解消する産業用ロボットをつくる人手が不足している」というややこしい話を聞き、産業用ロボットをつくる職業がロボットSIerであること、産業用ロボットを動かすには目的に合わせてハンドなどを取り付ける必要があることなどを教えてもらった。そして、天野さんの正体は、実は…。

日本で唯一の構想設計を専門で行う会社

いや〜社長!よろしくお願いします!天野さんが産業用ロボットに関連した会社の社長さんだと知った編集部。華麗なる手のひら返しを見せつつ、ロボットSIerについて教えてもらうべく、ロボコムなる会社を訪れたのでした。天野社長、ここはどんな会社??

「一口にロボットSIerと言っても、企画、設計、組み立てなど、多くの工程があり、それぞれに専門職がいます。ロボコムはその中でも産業用ロボットの構想設計を専門に行う日本で唯一の会社なんです」

日本で唯一なんですか!?「そうなんですよ。詳しくは金谷(かねたに)先生、お願いします!」。

ロボコムの皆さん。ノリノリで撮影に協力してくれました♪

構想設計がまずは大切!

というワケで、ご紹介いただいたのは同社の取締役・金谷智昭さん。ところで、構想設計ってなんですか?

「例えば、ビルを建てるとき、いきなり詳細な図面は書きません。まずは、そのビルの用途は何か。どんな場所に建てるのか。予算はいくらなのか。そうした条件や要望をお客さんから聞いて、大まかな完成予想図を作成します。産業用ロボットも同じで、基本設計などを行う前に、まずは概略を決めて、イメージ図を作成するんです。そして、実証検証を行ったり、仕様書をつくったりしながら、見積もりを算出します。これらの工程を構想設計と呼ぶんです」

CAD を操作し、構想設計の資料を作成している様子

事件です!ハンドにトラブルが!!

構想設計に不備があると思わぬトラブルが起こることもあるのだとか。

「例えば、リンゴの皮をむく作業を安いコストで自動化したい会社があったとします。さて、そこで問題。価格が安い鉄製と高いけれど錆びないステンレス製、どちらの素材でハンドをつくったほうがよいでしょうか!」

う〜ん。どっちだろう…。

「答えはステンレス製です。なぜなら、リンゴは食材なので衛生管理の観点からハンドを毎日、洗浄する必要があるんです。構想設計の段階で洗浄のことを想定していないと、コストを下げるために鉄製を選んでしまい、導入後に錆びてしまった、なんていうトラブルが起こります。ですから、お客さんの業界や現場のことをしっかりと理解して設計をする必要があるんです」

下図:構想設計の資料のイメージ
ある食品を箱詰めする工程と、それをパレットに積み上げ(パレタイズ)する工程を自動化するシステムの構成一例。下図は実際にお客さんに提出した構想設計の資料の一部。

ロボットSIerはもともと○○メーカーだった

導入後を見据えた設計が大切なんですね。だけど、それができる会社は意外と少ないんだとか。

「ロボットSIer の多くは、もともと機械メーカー=モノづくり企業です。だから、受注前の工程である構想設計は、モノづくりではない=本来の仕事ではないという意識が少なからずあり、無料で行うことが慣習になっている傾向があるんです。無料だと時間や費用がかけられませんよね。でも、導入プロセスの土台となるのが構想設計です。だから、本当はそれ相応に時間も費用もかけないと後々トラブルが起き、結果的に金額が倍になることだってあり得るんです」

模型を使い、ハンドの設計について打ち合わせをしているところ

産業用ロボットは安いものでも1台100万円以上する。しかも、買ってそのまま使えるのではなく、目的に合わせてハンドを取り付けたり、プログラミングしたりしなくてはならない。だからこそ、システムの構想を最初にしっかり設計することが重要になる。

「そこで、日本ではどこよりも先駆けて構想設計の専門企業として2017年に設立されたのが当社なんです。ちなみに、構想設計を有償にしようという動きは、経済産業省も提唱していることなんですよ」

坂本さん
同じ設計が1つとない世界。だから、常にワクワクしています。例えば、カメラのメーカーの設計士は、ずっとカメラの設計をします。もちろん、機種によって細かな違いはあるものの、カメラの構造そのものは変わりません。
いっぽう、ロボットSIerはいろいろな業界のいろいろな作業を行うロボットを設計します。豆粒みたいに小さなネジを運びたい。柔らかいモノをつまみたい。ハンバーグにケチャップをかけたい。単純な作業からその道数十年の職人技、危険な作業など、ロボットで再現する動きは本当にさまざま。だから、毎回、新しいことへの挑戦なんです。そんな毎日はとても興奮しますよ!(設計士/坂本 広地さん)

産業用ロボット界の一級建築士事務所を目指して

同社では設計士が工場に足を運び、実際に人間がどんな動きと手順で作業をするのか、観察をすることもあるそうだ。そうして、より最適で、トラブルのないロボットを目指し、構想設計を行っていく。

設立から2年、すでに多くの実績を積み上げている同社は、小さな町工場から大手企業の工場まで、多くの現場で産業用ロボットの導入をサポートしてきた。

下図:産業用ロボット導入のプロセスとロボコムの特色
一般的なロボットSIerの会社では、構想設計は受注前のため、無料で行うことが多い。ロボコムは構想設計の専門の会社として、より適切な構想設計を行い、結果的にトラブルがなく、価格もおさえられた産業用ロボットの導入をサポートしている。

「当社が目指すのは産業用ロボット界の一級建築士事務所なんです。建築の世界では設計をする会社と建物を建てる会社が分かれています。そして、設計の仕事は建築士が専門職として担います。よく『この建物は一級建築士の○○先生の作品だよ』なんて言い方をしますが、『この工場のロボットシステムはロボコムの先生が設計したんだ』と言われるように、構想設計という仕事のステータスを上げていきたいと思っています」

だからさっき、天野さんから「先生」と呼ばれていたんですね。「あれは冗談半分で呼んでいただけですが(笑)。でも、世の中からそういうふうに認めてもらえるように、そして、日本の産業用ロボット業界を引っ張っていく会社になれるように、これからも頑張っていきたいですね」。

ロボコム株式会社 代表取締役 天野さん
ロボコムが手掛ける「自動化構想設計」は、いわば「工場のプロデューサー」。そして、この仕事は一部の先進国にしか存在せず、日本でも該当するエンジニアは数千人しかいないと言われています。 今は「AI のエンジニアがすごい!」と言われていますが、5年後、10年後には間違いなく構想設計エンジニアの時代が来ます。 今、この技術を学び始めることで、早々に業界屈指のエンジニアになることができます。その証拠に、ロボコムにもミャンマー、ベトナムなど新興国の若手一流エンジニアがこぞって応募し、入社が次々と決まっています。 日本の未来を支える高校生の皆さんにも、この仕事の魅力を知ってもらい、一緒に未来を創っていきたいですね。

文= 阿部 伸/写真= 高永 三津子 text ABE SHIN / photograph TAKANAGA MITSUKO