常見陽平の 進路選びのポイントはココだ!【後編】

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ー大手企業で働くこと、中小企業で働くこと、それぞれのよさを教えてください。
大手企業は、大手だからこそ体感できる〝レベルの高さ〟というものがあります。以前、トヨタ自動車との合弁会社の設立にたずさわったことがあり、トヨタの生産現場を間近で見ました。いろいろな工場で実施されている「整理・整頓・掃除・清潔・しつけ」の5S 活動をどの企業にも負けないくらい徹底して行っているなど、職場環境をよくし、作業効率を上げる工夫は「さすがトヨタ」と感じるものでした。
〝レベルの高さ〟とは単純に技術の高さだけではありません。そうした職場環境などに対する意識、あるいは世界経済と関わりが持てるといった世界観の大きさは、やはり、大手でしか体感できないものだと思います。

また、大手は会社の中に選択肢がたくさんあることもメリットです。働いていると、この部署は合わないけど、こっちの部署では楽しく仕事ができるなんていうことがよくあります。また、自分と気の合う上司や部下や同僚と巡り会うチャンスが多い点も大手のよさだと思います。

ー中小企業の場合はどうでしょうか?
経営者との距離が近く、一人の社員に対して、ていねいに育ててくれる可能性があります。また、少人数だからこそ仕事の役に立っている実感を強く感じられると思います。

ほかにも、例えば、東日本大震災のとき、小さな町工場が作る部品の供給がストップし、そのおかげで大手メーカーが自動車を生産できなくなったことがありました。中小の町工場がつくるモノは大手では手がけられないモノが多く、小さな町工場の仕事が実は大手企業を支えています。そして、それが日本の経済を支えている。そうした喜びを実感できることも中小企業の魅力でしょう。

ー日本のモノづくり産業は「衰退している」とよく言われます。最近ではAI(人工知能)が実用化されつつあり、「なくなる職業」の話も耳にします。今後、モノづくり産業はどうなっていくと思いますか?
結論から言うと、日本のモノづくり産業はなくならないというのが僕の見立てです。「あの職業はなくなるぞ」という話はAI が登場する以前からあるんです。ところが、社会が変化するように企業も変化し、生き残るどころか勢いを盛り返す会社がたくさんあります。だから、あまりそこに悩む必要はないと思います。

特に、職人の世界はAI に置き換えにくいという話があり、何よりも今でも新人を採用しようとしている産業は、それだけ社会に根付き、これからも残していきたいという意思があるからこそ採用しています。そのことから考えると、すべてのモノづくり産業が衰退しているとは言えないと考えています。

ー工業高校生の進路といえば、就職もそうですが、進学もあります。どちらかで悩んでいる生徒にアドバイスをお願いします!
20歳前後に学校で学ぶことは「一生モンの価値があるぞ」と思いますし、早く社会に出てもまれることにも大きな意義があると思います。ただ、進学するには経済的な問題もあるので、そこはよく考えて欲しいですね。奨学金は言い換えれば借金であって、のちのち奨学金に苦しむ人もいます。

先日、ある新聞社の企画で若者と座談会をする機会がありました。そこに参加していたある10代の子は、いくつかの大学のオープンキャンパスをまわった結果、大学に行く意味を見出せずに地元の信用金庫に就職しました。もしも、就職か進学かで悩んでいるのなら、オープンキャンパスに足を運んでみるといいと思います。就職するにしても進学するにしても、さっきの子のように、自分の足で一度、調べたほうが納得のいく選択ができるようになりますから。

ー最後に、モノづくりを学ぶ高校生に熱いエールをお願いします!
いいモノをつくると生活がよくなり、社会が前に進みます。ですから、社会人になったら、自分が手がけたモノが世界を動かしているんだという喜びをぜひ感じて欲しいと思います。今はブラック企業や求人詐欺など不安になる話もありますが、仕事はやっぱり喜びに満ちているからこそ、大人たちはみんな続けているんです。高校を卒業し、働くにせよ、進学するにせよ、これから続く新しい体験の連続にワクワクして欲しいですね。

常見 陽平( つねみ・ようへい)
千葉商科大学国際教養学部専任講師/いしかわUI ターン応援団長北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015 年4 月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。

〈創刊号(2017年10月発行)特集インタビューより〉

取材・文= 阿部 伸  写真= 高永 三津子

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